第2回研究会_パラレルセッション

第二回研究会

パラレルセッション

  • 座長:山岸 潤也(帯広畜産大学 アグリ・インフォマティクス支援セルユニット)・笹森 史郎(日本ジェネティクス株式会社) 
  • 20分講演+4分質疑、オービットホール 本館B1F

10:00-10:24「ゲノムセンターにおける大量サンプルプレップの経験から ~自動化とMate-Pair~」

志波優 (東京農業大学・生物資源ゲノム解析センター)

当ゲノムセンターではIllumina GAIIxとHiSeq 2000の2台の次世代シーケンサーを稼働させ、昨年度だけで動物、植物、微生物のサンプルを400以上シーケンスした。アプリケーションとしては、リシーケンシングとDe novoシーケンシングが中心であるが、RNA-seq、TSS-seq、ChIP-seq、Bisulfite sequencingからメタゲノム解析まで多岐にわたっている。特にゲノムサイズの小さなバクテリアについては、一回のランで50サンプル以上をシーケンスしており、サンプルプレップの効率化が喫緊の課題となっている。

 サンプルプレップには、DNA断片化、複数回の酵素処理によるアダプターライゲーション、サイズセレクション、PCR、ライブラリ濃度定量といった多数のステップを要する。そのため、当センターではベックマン・コールター社のSPRIworksを用いて、DNA断片化後の処理からアダプターライゲーションまでの自動化を行っている。本講演では当センターでのサンプルプレップのワークフローとそのノウハウについて紹介したい。また、イルミナ社から発売されたハンズオンタイムの短縮が期待されるトランスポゾンを用いたDNA断片化とアダプター付加を同時に行うNextera DNA サンプル調製キットについて、従来手法との比較検討を行っており、その結果についても報告する。

 さらに、De novoシーケンシングについても検討している。De novoシーケンシングにおけるアセンブリの精度向上のためにはMate-Pairが有効だと考えられている。しかし、DNA断片化のステップで長い断片長を得るのが容易ではなく、またイルミナ社のMate-Pair調製キットでは近距離の配列のコンタミネーションが多いという問題点がある。当センターでは断片化のステップで複数の手法を検討し、アダプター配列を付加するなどMate-Pairの改良を行っているので、それについても合わせて報告したい。

10:24-10:48「OIST SQC風味のライブラリプレップ」

藤江学 (沖縄科学技術大学院大学・DNAシーケンシングセクション)

nGS(n-Generation Sequencing)分野の技術革新はその利用者の口々から「もうダメもうイヤ~ン」というため息にも似た声が漏れる程のスピードで発展している。その技術革新がシーケンスデータの質と量を向上させると同時に実験の簡略化・自動化を猛烈な勢いで今後押し進めてしまうことは想像に難くない。そのためシーケンスをすることだけを生業としている我々OIST SQCには次世代シーケンサーのコモディティ化という技術革新のスピードとは別な意味の「もうダメもうイヤ~ン」な未来が待っているわけだが、破壊的イノベーションによって生じる商売上がったりな未来からは華麗に目を背け、南の島沖縄でなんくるないさーと呟きながら前向きにシーケンサーを稼働させている。

現在OISTではIllumina、454というテクノロジーが異なる次世代シーケンサー2機種、合計5台を保有している。
異なるテクノロジーによってシーケンスを行うメリット、デメリットを直接肌で感じながらそれぞれの長所をチャンプルーさせ、必ずしも完成度が高いとは言えない次世代シーケンサーのアプリケーション改良を我々は進めている。
本発表では我々が実際に利用している実験技術の中から、皆様の時間が無駄にならないように笑い・驚き・感動の夢の4割打者、合計12割打者の発表を目指しつつ、我々が取り組んだ技術的改良とその結果について紹介する。

10:48-11:12「イネ品種間交雑後代における QTL-seq 法を用いた迅速な遺伝子座同定法の確立および岩手生物工学研究センターにおける次世代シーケンサーの運用」

高木宏樹 (岩手生物工学研究センター・生命科学研究部)

近年、DNAマーカー選抜は、イネ育種において最も効率的な育種法の一つとなっている。それ故、DNAマーカー選抜の前段階である有用QTL同定を迅速に進めることは、イネ育種にとって最も重要な課題である。しかし、従来の連鎖解析を用いたQTL同定方法では、交配に用いた品種間で多型を示すDNAマーカーを作製するステップで、多くの労力および時間を必要とした。それ故、農業上重要とされる量的形質の表現型分離を交雑後代で観察するためには、遺伝的に「近縁」な品種を交配に用いたいが、多型を示すDNAマーカーを利用するためには、遺伝的に「遠縁」な品種を交配に使用しなければならないというジレンマに陥ることが多かった。
 本研究では、次世代シーケンサーを用いて、2つのDNAサンプルの全ゲノムシーケンスによりQTL同定を可能にする「QTL-seq法」を確立した。QTL-seq法により、従来のQTL同定法で律速段階となっていたDNAマーカー作製が不要となった。これまでにQTL-seq法を用いて、計6交雑組合わせを用いて、イネいもち病に対する圃場抵抗性、初期伸長性、低温発芽性および良食味に関与するQTLを6つ同定した。QTL-seq法によって得られた結果が、従来のQTL解析結果と一致する事も確認した。上記より、DNAマーカーの連鎖解析を用いる従来のQTL解析法と比較して、QTL-seq法は、迅速かつ低コストにQTLを同定できるので、育種上極めて有効であると考えられる。
 講演の後半部では、当研究センターにおける次世代シーケンサーの運用状況について、サンプル調整から解析までの体制を中心に紹介する。

11:12-11:36「RNA Seq/ChIP Seqでの体系的鋳型調整の実際」

今村聖実 (東京大学大学院・新領域創成科学研究科)

演者らのグループでは、文部科学省「ゲノム支援」の一環として、多様な生物種に対して、RNA Seq/ChIP Seqをはじめとする雑多な鋳型調整を行っている。本講演では、これまでに演者らのグループで経験した鋳型調整上での問題点、また大量検体処理へ向けた鋳型調整の自動化への試みについて概観したい。

  • 1)鋳型調整
    • ChIP Seq
      多くの転写因子、細胞系において、IPおよびIP DNAの鋳型調整の実験条件の設定に努めた。特に、各種の抑制性(H3K9me3、H3K27me3)、活性性(H3K4me3, H3K4Ac)のヒストン修飾については、実際に多くの支援依頼に対応する必要があった。本解析系をヒト、マウス、メダカの系へと実際に応用することで、ヒストン修飾はその抗体が全ての生物種においてクロスし、また実験条件もほぼ画一のものを用いることが可能であることを確認している。得られたプロトコールは該当する支援依頼者に提供、試料調整の円滑な遂行に貢献した。
    • RNA Seq
      いくつかの支援依頼に対応するために、試料の微量化が必須であった。現在、個々の実験条件を整備し、最小5ng の出発材料からRNA Seq library を作成している。また、細胞質、核、あるいはポリソーム画分といった細胞内画分について個別のRNA Seq を行う系を確立し、mRNA の細胞内ダイナミクスを解析することを可能とした。さらに、miRNA と複合体を形成するAgo タンパク質をモデルケースに、RNA IP についても、実験条件の設定を行い、支援依頼に対応できる体制を整備した。
  • 2)自動化
    • 一般的な鋳型調整補助に用いるためにBeckman SPRI-TEを、特にexomeの鋳型調整補助にAgilent XT-Autoの試用を行った。試薬ロット間、プロトコール間での安定性について検討を行った。

11:36-12:00「一分子シーケンサーのための非増幅CAGE cDNA調製自動化システム」

伊藤昌可 (理化学研究所・オミックス基盤研究領域)

CAGE法はゲノム上の転写開始位置とその発現量を網羅的に解析する技術である。本法を用いて、分化に伴う遺伝子発現の経時変化や遺伝子ノックダウン・過剰発現による他遺伝子群発現への影響を網羅的に解析することで、遺伝子の調節ネットワークを解明する手段として有効である。我々は本法をHeliScope一分子シーケンサーに応用することにより、PCR増幅で生じる偏りをなくし、各転写開始点の発現レベルを定量的且つ再現性よく解析することに成功した。その過程で、オリジナルのプロトコルを可能な限り単純化して簡略化したプロトコルを開発したが、そのライブラリー生産は人の手に頼らざるを得ず、時間と労力を要するものであった。本法により遺伝子発現制御ネットワークを解析するには、多数のサンプルを効率よく処理することが重要である。そこで、我々はCAGE cDNA調製工程をハイスループット化すべく全行程の自動化を試みた。プロトコルの各工程を8連独立自動分注ロボットをベースにした動作に適応させ、手動による調製からさらに改良を加えることで、ほとんどの工程を自動化することに成功した。確立した自動調製システムにより、手動による調製で6週間かかる96サンプルの調製を8日間に短縮することが可能となった。本システムで調製したCAGE cDNAは、シーケンスによる解析で非常に高い再現性を示し、且つ調製ウェル間でのばらつきが手動調製並みであった。また、全工程を自動化することにより、手動調製時に散見されるサンプルの取り違えやサンプル順の逆転などの事故を避けることが可能になった。本システムは、HeliScopeシーケンス用の鋳型調製システムであるが、その他の次世代シーケンサーにも応用可能であり、且つCAGE以外のRNA-seqや完全長cDNA調製にまで応用可能である。

ツールセッション

  • 座長:宮本 真理(株式会社CLCバイオジャパン)・上村 泰央(株式会社ジナリス)
  • 20分講演+4分質疑、中宴会場 泉 東館1F

10:00-10:24「次世代ゲノム解析における傾向と対策~目的に合わせた道具選び~」

上村泰央(ジナリス株式会社)

次世代シーケンシング技術の発展により、さまざまなシーケンサーが実用化され利用できるようになってきている。同時に、サンプル調整、ライブラリー作製、配列データのアセンブリーやマッピングといった解析を行うプログラムなど、多数開発されてきている中、我々が利用可能な選択肢は実に多岐にわたる。

このように多数の“道具”が選べるようになってきている中で、それらを正しく理解し、解析の目的に合わせて正しく使いこなすことが非常に重要である。本発表では、新規ゲノム決定、ゲノムリシーケンス解析、トランスクリプトーム解析などの応用分野においていくつかの具体的なテーマを設定し、それぞれにおいてシーケンサー機種やリード長の選び方、必要なデータ量、データ解析の方法やツールの選び方など、検討すべき選択肢について論じながら、実際の解析結果を示して比較議論したい。
また、解析事例に加えて、気をつけるべき落とし穴やその対処法など、「現場」で使える実戦的なテクニックについても可能な限り紹介したい。

次世代シーケンサーが急速に普及する中で、この革新的なツールをいかに有効活用できるかが次世代ゲノム研究において重要な鍵となるであろう。そのような状況において、目的に合わせた正しい道具選びについて、現場の皆さんに役立つ情報を提供できればと考えています。

10:24-10:48「進化し続ける de novo アセンブリ」

笠原 雅弘(東京大学大学院)

次世代DNAシークエンサーは競争が激しく、毎年のように新しい機種や試薬が発売され、それぞれ異なった性質(リード長、塩基精度、1ランあたりの時間とスループット、エラー特性、メイトペア作製の可否、ランあたりのコスト)を持っている。今までは大型のシークエンシングセンターがそれぞれ自前のゲノムアセンブラーを開発し、自前のプロトコルと自前のデータにチューニングしたゲノムアセンブラーを開発してきていた。しかし、あまりにも早いDNAシークエンサーの技術革新を考えると、この状況は好ましいことではなく、なるべく多くの種類のDNAシークエンサーからの出力をロバストに受け付けるゲノムアセンブラーを開発する必要がある。

このために、我々は長いリードを含む(PacBio RS等)様々なDNAシークエンサーからの出力を受け付けるゲノムアセンブリアルゴリズムを実装している。長いリードを出力するテクノロジーはエラー率が高いことで知られているため、従来のアルゴリズムと似た枠組みでゲノムアセンブリを行うことは難しい。従来のアセンブリアルゴリズムは言うなれば「よく似ていて十分自信持って併合できるリードを探し、併合する。」という戦略を採っているために、エラー率の高い長いリードを併合できるようにするためには非常に低いスレッショルドでリードの併合を行う必要があるが、この戦略の下では区別可能な違いを持ったリピート配列等が併合されてしまいアセンブリを逆に難しくしてしまう。我々の実装する RAMEN アセンブラーでは、従来の戦略を裏返して「似ているリードはとりあえず繋げてみて、自信を持ってコンティグを分解できる場合には2つに分解する」という戦略を採ることでこの問題を回避した。この戦略により、各シークエンサーに特異的な系統的シークエンシングエラーやタンデムリピートのコンプレッション問題、二倍体以上のゲノムアセンブリなど、様々な問題が同時にある程度回避できることを示す。

10:48-11:12「MetaVelvet: a short read assembler for metagenomics」

八谷剛史 (慶應義塾大学)

MetaHIT (Metagenomics of the Human Intestinal),HMP (Human Microbiome Project),EMP (Earth Microbiome Project) などのメタゲノムプロジェクトの寄与によって,微生物のメタゲノムデータが急速に蓄積されている。これらのプロジェクトは,メタゲノム中の遺伝子配列を大規模に決定することを目的のひとつにしている。配列解読量に優れるイルミナ社の GenomeAnalyzer または HiSeq が主に利用されており,短いリード配列をアッセンブリし,スキャッフォールドから遺伝子予測を行うアプローチが試みられている。しなしながら,Qin et al. (2010) においては,アッセンブリして得られたスキャッフォールド長が短く,予測された遺伝子の2/3以上について,ORF の一部分の配列だけしか決定されなかった。

我々は,メタゲノムデータのアッセンブリに特化したソフトウェア MetaVelvetを開発した。20菌種から構成される微生物叢のメタゲノムデータをシミュレーションによって生成し,MetaVelvet,Velvet,SOAPdenovo,MetaIDBA のアッセンブリ性能を比較したところ,MetaVelvet の N50 は他のアッセンブラの数倍長く,メタゲノムにコードされる遺伝子の完全長予測に有用であることが示された。さらに,MetaHIT プロジェクトで得られた実際のヒト腸内細菌メタゲノムデータに MetaVelvet を適用したところ,他のアッセンブラよりも多くの遺伝子の完全長を決定することに成功した。

11:12-11:36「RECOT: リードの種間座標変換ツール」

瀬々潤(東京工業大学大学院)

シーケンサの並列化・高速化によって非モデル生物のゲノム配列が解読されている.更に,解読されたゲノム配列を利用してRNA-seqやChIP-seqなどの解析が行われはじめており,種を超えて次世代(超並列)シーケンサの実験結果を比較する機会が増えている.その一方で,次世代シーケンサ用のブラウザは複数種のゲノム配列を同時に可視化する事ができず,比較ゲノム用ブラウザには次世代シーケンサのリードを読みこませる事が難しいといった問題点があり,種間で実験結果を比較する事は容易ではなかった.

この問題点を解消するため,本研究では,次世代シーケンサから得られた配列を異なる種間で比較可能にするスクリプト群 REad COordinate Transformer (RECOT)を開発した.RECOTを用いる事で,(1)RNA-seq/ChIP-seqなどのシーケンスデータ,(2)(1)の実験を行った種のゲノムや遺伝子配列,(3)比較したい変換先の種のゲノム配列を入力とし,(1)の配列を(3)の配列に対応付ける事が可能である.計算結果はSAM形式で出力されるため,次世代シーケンサ用の多くのブラウザで利用する事が可能である.

類似のソフトウエアに,UCSCのliftOverがある.RECOTはliftOverに比べ次世代シーケンサのリードを直接扱える点,ゲノム間の対応を記したファイルを予め用意する必要が無い点が優れている.また,得られたリードを比較したい種にアラインメントする方法も考えられるが,種が異なると特に非コード領域には置換頻度の高い領域も見受けられ,配列を正確にアラインメントすることは困難であるため,RECOTの手法に利点がある.

本講演ではRECOTの概要を紹介すると共に,RECOTの実装や並列化手法に関しても紹介し,次世代シーケンサ用ツールの開発活性化へと繋げたい.

11:36-12:00「CLC New Mapping algorithm 性能評価と比較検討」

宮本真理(株式会社CLCバイオジャパン)

CLC bioは次世代シーケンサーの解析ソフトウェアの開発を行っており、ユーザーインターフェースから利用できるソフトウェアや、コマンドラインで利用できるソフトウェア、サーバー用のソフトウェアなど、様々な用途に合わせた開発を行っている。現在、マッピングの性能向上のための開発に力を入れており、本発表では、その性能評価の結果について最新情報を報告する。マッピングはシーケンサーから得られたリードを参照ゲノムへ貼り付ける解析ステップとなり、様々な解析の1次解析として位置づけられるため、マッピングの精度や速度はその後の解析に大きな影響を与える。しかしながら、次世代シーケンサーの解析結果は様々な解析を通した結果となるため、それぞれの解析ステップについて詳細な比較や検討を個々の研究者が行うことは大きな負担であり、開発元がある程度の検証結果を提供することは大変重要である。しかしながらいわゆるチャンピオンデータという結果のみの提供が現実的ではない場合もある。実際の現場で扱われるデータは様々であり、特に今後様々なアプリケーションでシーケンサーが使われる中、その1次解析であるマッピングに利用されるデータの性質は様々であろうと考えられる。そのため実際に現場で扱われるデータというのは、必ずしもチャンピオンデータを出した場合と同じ条件ではない事は想像に難しくない。本発表では、現場で活用できるような性能評価の結果ならびにチャンピオンデータと同等な結果が得られない場合、何が起因してそのような結果になるのか、などを検討した結果を合わせて報告する予定である。

パネルディスカッション: NGSがコモディティとなった時、成すべきサイエンスは何か

  • 座長:荒川 和晴(慶應義塾大学先端生命科学研究所)・佐藤 行人(国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター)

本会 2日目(2012年5月25日・金曜日) 10:00-12:00

  • 中宴会場 銀河 東館2F

10:00-10:18 「次世代テクノロジーが解き明かすiPS細胞研究:現実と夢」

渡辺 亮 (京都大学iPS細胞研究所)

ディープシーケンシングを使えば何か分かるかも?確かにそうかもしれません。一方でやれば良いという考えでよいのでしょうか?特にエピゲノム解析でディープシーケンサーがどのような役割を果たすか、本当にディープシーケンサーが必要なテーマなのか?本当にエピゲノムを見る必要があるのか?出てきた結果をどう解釈するのか?といった根本的な疑問について、iPS細胞研究を題材に問題提示し、すべての分子生物学研究とディープシーケンシングの現在と未来を皆様とディスカッションしていきたいと思います。

10:18-10:36 「NGS技術で生命史観は変わりますか? ~進化と発生の視点から~」

入江 直樹(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)

塩基配列を読み取る機械が超並列化され、高速化が起きました・・・というだけで生命観やライフサイエンスの何かが変わるんでしょうか。
もちろんすべての分野における波及効果を予見することは不可能ですが、少なくとも進化生物学に興味がある私は大きな期待を寄せています。
パネルディスカッションですし、まずこれまでの生命史観の変遷に触れ、その後に進化生物学(特に進化発生学)で解明が期待できそうな
話題の提供をすることでみなさんと議論できればと思っています。

10:36-10:54 「大量データと生態・環境・水産: 海洋フードウェブ・ゲノミクスを創ろう」

佐藤 行人(国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター)

すでに言い古されているように、分子生物学の登場によって医・生理学から系統分類・進化学までもがDNAという共通言語で繋がったのが20世紀だった。さて今世紀、「大量遺伝情報の高速取得」という、人類が手にしたこの新たな手段は、一体どのようなフロンティアをもたらすのか? その1つは、大規模メタゲノム解析によって生態・環境を丸ごと対象とした研究が可能になったことだろうか。
 
そんなことを考えていた矢先の震災と原発事故。生体濃縮を通じた海洋汚染伝播の実態を科学的に評価し、水産資源種の安全確認や除染等を適切に実施していくためには、海洋食物連鎖網(フードウェブ)の知識が必須となる。では日本近海のフードウェブについて、現在の我々はどれほどの理解をもっているだろうか?そう考えて文献を漁った所、知識は非常に限られていると言わざるを得ない現況に気づいた。
 
ここでは、演者らが海洋フードウェブ解析のために企画しているメタゲノムアプローチを題材に、NGS 活用が、生態や環境といったマクロな学問領域の推進にどのような寄与をしうるかについて、議論をしてみたい。

10:54-11:12 「オミックスデータからいかに知識を抽出し証明するか – 統計的・物理化学的モデリングとゲノム設計」

二階堂 愛(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター)

オミックスアプローチが、生命現象の理解に重要な発見を成しえるか?

これはゲノム科学に携わる人の内外から問われる重要な問題である。ゲシュタルト学派的考えでは、「部分の総和は全部であって全体でない」とあり、現象に関わる全体性やその構造を理解することを重視する。一方で、現象を重要な素過程だけを取り出し、詳細な定量化により理解しようとする定量生物学的アプローチ、いわば「神は細部に宿る」を重視する考えも根強い。

オミックスアプローチは、シーケンサーの技術革新により、ますます容易さ、詳細さを増す。以前は現象の構造を取り出すのみと誤解されがちだったオミックスだが、現在では全体性を損なわずに定量的なデータが得られる。これにより一見矛盾する、全体を重視するアプローチと素過程の定量を重視するアプローチの境界が曖昧になりつつある。ここでは、このような定量的オミックスデータを用いるとなにができるのか、今やれることはなにかについて議論したい。

11:12-12:00 「パネルディスカッション」

コーディネーター:荒川 和晴(慶應義塾大学先端生命科学研究所)

 

一般演題1

  • 一般演題1 座長:古川 貴久(ライフテクノロジーズ ジャパン株式会社)・角川 弘晃(日本ジェネティクス株式会社)
  • 大宴会場 月光 1 本館2F

10:00 – 10:30 「マトリョーシカの中心でNGSと叫ぶ」

守屋繁春(理化学研究所)

 生物のほとんどはなんらかの形でマトリョーシカめいた共生の恩恵を受けている。我々は生物間共生の「依り代」を明らかにするべく、複数のモデルを用いて主にトランスクリプトーム解析とメタボローム解析を用いた試みを進めている。本ポスターではシロアリ共生系で我々がこれまで進めて来た解析結果を報告するとともに、今後計画しているサンゴ共生系、バイオフィルム共生系のNGSを用いた解析計画を紹介し、会員諸氏とのディープな議論を楽しみたい。

10:30 – 11:00 「ネムリユスリカの乾燥無代謝休眠を支えるゲノム情報と原因遺伝子の解明」

Oleg Gusev(National Institute of Agrobiological Sciences)

 ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)の幼虫は無代謝休眠状態(アンヒドロビオシス)に入ることによって、極限的な乾燥耐性を示す。複合適応形質であるアンヒドロビオシスは、昆虫の中でネムリユスリカだけが進化の過程で獲得した形質である。本プロジェクトの目的はネムリユスリカの全ゲノム解読によりその極限的な乾燥耐性の分子メカニズム及び進化を解明することにある。 ネムリユスリカと同属の近縁種であるヤモンユスリカ(Polypedilum nubifer)は乾燥耐性を持たない。 ネムリユスリカの乾燥耐性関連ESTデータベースを解析した結果、親水性なLEA(Late Embryogenesis Abundant)タンパク質、坑酸化因子、HSPs、DNA修復関連遺伝子などが重要であることが明らかになっている。現時点で得られているネムリユスリカのゲノム情報から、それらの遺伝子群を中心に解析を進めており、いくつかの興味深い特徴が浮かび上がってきた。

11:00 – 11:30 「オウムガイおよびイカ胚の比較RNAseqに見る頭足類カメラ眼の進化メカニズム」

吉田真明(国立遺伝学研究所)

 動物はさまざまな形態や機能をもつ複雑な眼を持っており、それがどのように獲得されてきたかはダーウィン以来生物学の普遍的な問題の一つである。 我々は多様な眼の形態をもつ軟体動物を対象に、眼の形態多様化に関与した進化メカニズムを明らかにするべく研究を行なっている。
 
 一口に眼の進化といっても、発生過程に眼を向けると多様な過程が対象となる。例えば眼原基のspecification、レンズタンパクの発現、オプシンの多様性、および網膜と脳神経系との接続といった過程が軟体動物ではおそらく何度も独立に獲得されており、適当な種のペアーを比較することでそれらの過程の獲得に関与した分子メカニズムに迫れるのでは考えている。互いに極近縁でない複数の種を対象として解析を行うため、分子進化・発現遺伝子比較を行うためのプラットフォームとしてトランスクリプトームを確立することを目的に次世代シーケンスを用いている。今回はその中でもレンズ形成の多様性に注目した話題について紹介する。
 
 オウムガイはイカ・タコ類(頭足類)の祖先種でありピンホール眼をもつ。ピンホール眼はレンズを欠くため、レンズを新たに獲得することで頭足類のカメラ眼が獲得されたと考えられてきた。一方で、祖先においてカメラ眼であったオウムガイがレンズを失うことでピンホール眼が形成された仮説も考えられるが、これまで未検証であった。そこでレンズの有無に関連する遺伝子を同定・比較するため、ヒメイカとオウムガイ胚の眼のごく少量のサンプルからillumina GA IIによるRNAseqを行い、それぞれ7,200、3,500種の脊椎動物相同遺伝子を同定した。この結果を用いてオウムガイとイカの相同遺伝子のうちイカに見られるがオウムガイに発現していない遺伝子を推定した。その結果、オウムガイのピンホール眼はSix3/6の発現のlossによって元あったレンズが消失したことが示唆された。
 
 また、現在我々の研究室で解析しているイカ組織・胚発生過程のRNAseq解析についてとともに紹介するとともに、非モデル動物のRNAseqにおけるRNA抽出などの注意点について紹介し情報交換できれば考えている。

11:30 – 12:00 「次世代シークエンサーを用いた出芽酵母における大規模ゲノム再編成の検出」

久郷和人(東京大学大学院・総合文化研究科)

 DNAの二本鎖切断(DSB)は、子孫を残すための減数分裂期において、ゲノム配列多様性を生み出すための原動力となっている。DSB形成は染色体上に一様な頻度で形成されるのではなく、起こりやすい部位(ホットスポット)が存在することが知られている。しかしながら、その意義についてはあまり分かっていない。これまでに、人為的にDNAの二本鎖切断を誘発することが出来る「TaqIシステム」を開発してきた。0.7%程度配列が異なる酵母を細胞融合し、TaqIシステムを適用することでゲノムシャッフリングを行った。細胞の形状が変化した株のゲノムを次世代シークエンサーで解析し、どの様なゲノム再編成が起きているのかを解析した。今回は、その結果を発表し、解析方法についてディスカッションしていきたい。さらに、TaqIシステムと減数分裂期の組換えのパターンを比較することで、ホットスポットの存在意義の一端を明らかに出来るかもしれない。

一般演題2

  • 座長:森川 博史(タカラバイオ株式会社)・上坂 将弘(京都大学理学研究科生物科学専攻)
  • 大宴会場 月光 2 本館2F

10:00 – 10:30 「ひとつの値でトランスクリプトームを表現する」

緒方法親(東京農工大学)

 昆虫の培養細胞のトランスクリプトーム比較解析を行っている。発現変動解析においては、発現変動遺伝子の抽出が最も注目されており、解析ツールの研究開発や発表も盛んである。それらの方法で抽出された遺伝子は、生理状態の変化を示す代表的な遺伝子として変化を理解する助けとなっている。よりダイナミックな生理状態の変化を調べるために、対象の生物種によってはパスウェイ解析を行うこともできる。しかしながら、我々が扱っているカイコについては知見が少なく、パスウェイ解析ができなかった。そこで、トランスクリプトームのダイナミックな変化を可視化し、生理状態の理解を助ける目的で、統計手法の開発を行った。それらの方法を用いた種間比較によって、昆虫のトランスクリプトームがきわめて尖っていることが明らかとなった。

10:30 – 11:00 「Bridging the gap between biologists and bioinformaticians with Subio Platform」

田部暁郎(株式会社Subio)

 Subio Platform is not a statistical software, but is a free and sophisticated data browser getting high reputation from many biologists. And we provide plug-ins and technical services at very low prices. Also we’d like to help bioinformaticians who aim to make their analysis tools used by many biologists around the world. We appreciate your taking part of providing plug-ins.

11:00 – 11:30 「1細胞mRNA-seqについて」

笹川洋平(理化学研究所CDB)

 1細胞mRNA-seqは最も興味深いシーケンス技術の一つである。1細胞中には約10万分子程度のmRNAしか存在せず、そこから情報を取り出すためには増幅法が必須だ。理想的には、高感度に全てのmRNAをバイアス無く増やすことが求められる。我々は、これまでの方法に比べて高感度・低バイアス・安定性のある増幅方法を開発した。FACSやマニュアルピックした1細胞から安定的に増幅することができる。増幅したcDNAの収量は数十ng程度で、断片化した10ng DNAをIllumina社ChIP-seq kitでライブラリを作製し次世代シーケンスで定量性の良いデータを出すことが出来る。一方で多数の1細胞から情報を取り出すためには、マルチプレックスシーケンス対応のChIP-seq kitが必要である。我々は、Ethan-omicsプロトコルを参考にしつつ、KAPA library preparation kitとTruSeq adaptorを使用し、マルチプレックスシーケンス可能なライブラリ作製方法を立ち上げた。

11:30 – 12:00 「ゲノムマッピング:Burrows-Wheeler transformの次のアルゴリズム」

竹中要一(大阪大学大学院情報科学研究科)

 次世代シーケンサーのデータ解析においてゲノムマッピングは不可欠である。ゲノムマッピングとはリードとゲノム配列間のペアワイズアライメントであり、そのアルゴリズムは動的計画法、FASTAのハッシュ法、BLASTのオートマトンと発展し、現在はbowtieやSOAP2で用いられるBurrows-Wheeler transform(BWT)が主流となっている。しかし次世代シーケンサーから算出されるデータ量は増加の一途をたどっており、より高速なアルゴリズムが求められている。
 私はBWTの次に来るアルゴリズムとして、DNA配列の4元完全線形符号化を提案し、その有効性を本ポスターにて示す。今、長さnのDNA配列があるとする。この配列とその一塩基置換配列は1+3n個存在する。この全配列を、22.2+0.009n個の4元完全線形符号化したDNA配列により包含する事ができる。